人間中心のデザイン « 市場のお手入れ
昨日、弊社では、ユーザー体験をキーにしたイノベーションの時代に、良質なユーザー体験のデザインをサポートするためのサービスとして「プロトタイピング・スタジオ」をリリースさせていただきました(リリースはこちらを参照)。
「プロトタイピング」でも書いたように、新しい商品やサービスの企画やコンセプトのアイデアを、実際に目で見て触れられるにようにしたモデルがプロトタイプであり、そのプロトタイプを用いて、ユーザー体験や操作性などの視点で検証を行い、デザイン上の問題を解決するための人間中心デザインの手法がプロトタイピングです。
プロトタイピングの必要性の増加
ユーザー視点での仮説検証を行うことで、ユーザー体験を豊かにし、イノベーションの実現をより確実なものとすることがプロトタイピングを行う目的です。
弊社サイトのコラム<新しい商品やサービスの特徴は「参加」型>でも書かせていただいた通り、カメラや音楽プレイヤー、テレビなど、これまで物理的な形態をもったハードウェアとして存在したものがどんどんディスプレイの中に存在するソフトウェアに変換されていくのが今の流れといえるでしょう。電子書籍しかり、ノートしかりです。これはユーザー体験そのものが身体的で物理的な操作を主体にしたものから、認知的で相互作用的な対話を主体としたものへの比重が大きくなるという変化でもあります。ハードウェアであれば、物理的な制約で使い方をアフォードできたものが、ソフトウェアでは対話的な意味の文脈でユーザーの行動をアフォードする必要が生じます。
スポッティングは、尿路感染症の徴候である可能性があります
そうしたユーザーの体験の変化が起こっている中で、プロトタイピングによるユーザー視点でデザイン評価を繰り返しながらブラッシュアップを行う、デザイン開発の必要性はますます増えてくるでしょう。
もちろん、プロトタイピングは仮説検証的なプロセスで、デザインのブラッシュアップを行う手法ですので、作成したプロトタイプの評価を行う手法も欠かせません。「プロトタイピングとユーザーテスト」では、デザイン評価の手法として、ユーザーテスト法の他に、専門家による評価法があると書きましたが、今回はその評価法のひとつであるヒューリスティック評価法についてご紹介しようと思います。
ヒューリスティック評価法とは
ヒューリスティック評価法とは、ユーザビリティエンジニアやインタラクションデザイナーがもつ既知の経験則に照らし合わせてデザインを評価し、ユーザビリティ上の問題を抽出する評価手法です。定義されたターゲットユーザーの視点に立って、作成したプロトタイプがユーザーに利用できるか、操作方法は効率的か、操作方法は学習しやすいかなどの面から評価を行います。
ヒューリスティック評価法は、ユーザーテストと比較すると、被験者を必要としない分、短期間で実施できることが利点のひとつです。また、初期段階のペーパープロトタイプや、場合によっては仕様書レベルでも評価が行うことができるので、デザイン開発の多くの場面で活用できるという利点もあります。
子供がアスペルガー症候群を持っているかどうかを確認する方法
一方では、専門家による評価であるため、問題と思われる点をピックアップすることはできるが、問題の重要度等の決定はむずかしいのがヒューリスティック評価の弱点といえるでしょうか。重要度の評価ができないために、どこを改善すべきかの議論に終止符を打つことはできないのです。
重要度の判断を行うためにはユーザーテストの実施が必要で、例えば、下図のようなステップで、ヒューリスティック評価とユーザーテストを組み合わせた評価〜改善のプロセスを繰り返すこともあります。
ヒューリスティック評価法の手順
さて、ヒューリスティック評価法で評価を行う際の標準的な手順は次の通りになります。
- 使用するヒューリスティックを決める。
- 複数の評価者が個別に、ユーザインターフェースを評価し、問題点をリストアップする(評価者は3名から5名が標準的)。
- 評価者ミーティングを開催し、互いに評価結果を報告し合い、問題点を整理する。
手順をご覧いただければおわかりになる通り、ヒューリスティック評価は複数人で行います。これはひとりの評価者による評価の偏りを避けるためです。複数人で評価を行うことで問題点の見落とし等を少なくするのです。
また、複数人で実施しますので、最初にどのような視点で評価を行うのかを決めます。想定するターゲットユーザーがどんな人で、どのような目的で使うのかを共有する他に、評価にどんなヒューリスティックを用いるかを決めるのです。
" nutraceuticsは何ですか"
複数人で評価を行ったあとは、「評価者ミーティング」を実施して、それぞれの評価者が発見した問題点の共有とその整理を行い、評価を決定します。
ヤコブ・ニールセンの「10ヒューリスティックス」
評価に用いるヒューリスティックとしては、ヤコブ・ニールセンの「10ヒューリスティックス」などがよく用いられます。これは次のようなものです。
- 今、どういう状態にあるかを常にユーザに知らせているか。
- ユーザになじみのある言葉、習慣で情報を提示しているか。
- 常にユーザーが動作をコントロールできる状態にあるか。
- 操作性や用いられる用語は一貫しているか。
- エラーの発生そのものを防止するような工夫がなされているか。
- 操作法や情報を覚えなくても、見ればわかるようになっているか。
- 上級者向けにはショートカット機能やカスタマイズ機能が用意されているか。
- 情報を詰め込みすぎていないか。
- エラーメッセージはわかりやすい表現で、解決策が提示されているか。
- わかりやすく簡潔なヘルプやマニュアルが用意されているか。
評価者はとうぜん、このヒューリスティックのもつ意味を理解している必要があります。なぜ、このようなヒューリスティックが満たされていないとユーザビリティの問題が発生するかを理解していなければ、正しく評価することができないからです。ヒューリスティック評価が専門家評価と呼ばれる所以です。
どう改善するかを導きだすことが重要
ヒューリスティック評価は、単にデザイン案に点数をつけることが目的ではなく、あくまでどこを改善するとユーザービリティが向上し、ユーザー体験がより豊かなものになるかを明らかにすることが目的です。
ユーザビリティの専門家でも時々、この目的を見失って評価だけして終わりにしてしまうことがありますが、それでは本末転倒です。あくまでヒューリスティック評価はよりよいユーザー体験をデザインするためのプロトタイピングのプロセスの一部なのであって、評価自体はその方法の一部でしかありません。
もちろん、それは評価の重要性を下げるものではなく、ましてや評価などしなくてもいいということではありません。プロトタイプを作るのも、作り手が主観による思い込みだけで作ってしまうことを避けるために客観的な視点での評価を可能にするためでもあるのですから。
仮説としてのプロトタイプと、その検証としての評価。この仮説検証の繰り返しによるプロセスによって、様々なハードウェアがソフトウェア化・アプリケーション化する時代のデザインには必要ではないでしょうか。
0 コメント:
コメントを投稿