横浜市衛生研究所:インフルエンザワクチンについて
インフルエンザワクチンの勧められる人たち
毎年、冬になると、(季節性)インフルエンザの流行が、必ず起きます。1990-1999年の統計によれば、毎冬、アメリカ合衆国では、(季節性)インフルエンザの関与により約3万6千人の人が亡くなっています。インフルエンザに感染する確率は、こどもで高いですが、(季節性)インフルエンザの重症化や(季節性)インフルエンザによる死亡の割合は、65歳以上の高齢者、2歳未満の乳幼児や慢性疾患を持っている人で高いです。日本でも、1999年の日本人の平均寿命が前年に比べてわずかに短くなったのは、インフルエンザの流行により高齢者の死亡が増えたからだとされています。50-64歳についても、一つ以上の慢性疾患を持っていてそのため重症化することが多いとして、アメリカ合衆国では、以前は、50歳以上の人たちに、(季節性)インフルエン� �ワクチンが推奨されていました。 2002年において、アメリカ合衆国では、50-64歳の人は約4360万人いますが、そのうち、慢性疾患がある等の(季節性)インフルエンザの重症化の危険性のある人は約1350万人(34%)程度と推計されています。一方の、(季節性)インフルエンザの重症化の危険性のない、健康な50-64歳の人も(季節性)インフルエンザワクチンを接種することにより、(季節性)インフルエンザ患者数が減り、医療機関受診回数が減り、病気による欠勤が減り、抗生物質の使用も減ると期待されています。また、慢性の病気があるかないかによって選別して接種するよりは、年齢で接種するかどうかを決める方が誰にでも接種対象者がわかりやすく、そのため接種率も向上すると期待されました。
なお、2010-2011年冬季以後のインフルエンザワクチンについては、 新型インフルエンザ(A-2009H1N1)改めA(H1N1)pdm09 型インフルエンザの流行も予想され、アメリカ合衆国では生後6か月以上の人々に推奨されています。新型インフルエンザ(A-2009H1N1)改めA(H1N1)pdm09 型インフルエンザでは、慢性疾患がある等のインフルエンザの重症化の危険性がないと思われる若年者でも重症化した例が見られました。また、新型インフルエンザ(A-2009H1N1)改めA(H1N1)pdm09 型インフルエンザに対する免疫を持っていない人が、若年者を含めどの年齢層でもまだ多いと思われます。
毎年、インフルエンザワクチンを受けることにより、インフルエンザによる症状や死の多くを防ぐことができます。インフルエンザにかかると重症になりやすい人たちには、特にインフルエンザワクチンの接種が勧められます。65歳以上の人たち、心臓・肺・腎臓の慢性疾患を持つ人たち、喘息患者、糖尿病患者、免疫不全患者、重症の貧血患者等に勧められます。また、長期にわたってアスピリン治療を受けていてインフルエンザにかかるとライ症候群になることが心配される6か月から18歳までのこどもたちにも勧められます。老齢あるいは病気・障害のため介護を必要とする人たちにも勧められます。また、これらの人たちに関わる医療・保健・福祉関係者にも、自分が感染するとこれらの人たちに感染させてしまう恐れがあること� �ら、インフルエンザワクチンの接種が勧められます。
なお、ライ症候群(Reye syndrome : オーストラリアの病理学者R.D.K.Reyeに因む)は、水痘、インフルエンザとアスピリンの使用とに関係する病気です。ライ症候群は、水痘及びインフルエンザのまれな合併症で、水痘及びインフルエンザの急性期に鎮痛解熱剤のアスピリ ンを服用していたこどもたちに多く見られます。ライ症候群は、5-16歳が大部分で、嘔吐と嗜眠から始まり譫妄・昏睡にいたり、致死率は20-30%、生存者では脳障害が残ります。ライ症候群の発生の仕組みはよくわかっていません。しかし、水痘及びインフルエンザでアスピリンを使用しなくなってから、ライ症候群の発生は減少しました。水痘、インフルエンザではアスピリン(アセチルサリチル酸)を使用してはいけません。感冒薬の中にアスピリンが含まれている場合もあるので注意しましょう。
インフルエンザワクチンの効果
「インフルエンザワクチンは効かない」と言って、インフルエンザワクチンを受けない人もいます。インフルエンザワクチンを受けても、インフルエンザではない、インフルエンザに良く似た病気にかかってしまう場合があります。そのような場合には、その人は、「インフルエンザワクチンが効かなかった」と思うでしょう。また、前冬の流行ウイルスを参考としてインフルエンザワクチン株として選ばれたウイルスと、実際に今冬になって流行したウイルスとが遺伝子的にかけ離れたものとなってしまい、遺伝子的に近い場合と比較すればワクチンの効果が少なく見えるようなこともあります。大量のインフルエンザワクチンの製造には時間がかかり、実際の流行の半年以上前にインフルエンザワクチン株を選んでいるので、その半� ��の間に、流行ウイルスの遺伝子の大きな差異が生じてしまうと、改めてワクチンを作りなおすというようなことができないのです。実際に流行が始まってみないと、流行ウイルスの遺伝子の差異がわからず、また、ワクチンの効果の程度もよくわからないのです。
インフルエンザワクチンの効果は、人によって違います。65歳未満の健康な成人での研究では、流行ウイルスがワクチン株ウイルスと遺伝子的に同様のものの場合には、(季節性)インフルエンザワクチンは、(季節性)インフルエンザを予防することに70-90%で効果がありました。老人や慢性疾患を持つ人たちでは、(季節性)インフルエンザワクチンによるイン フルエンザ予防の効果は、これより落ちますが、(季節性)インフルエンザの重症化や(季節性)インフルエンザによる死亡を少なくする効果があります。(季節性)インフルエンザワクチンによって、介護施設に入所していない老人たちについて、医療機関への入院を30-70%減らす効果が見られたとする研究があります。また、(季節性)インフルエンザワクチンによって、介護施設の入所者について、入院や肺炎を50-60%、死亡を80%減らす効果があったとする研究があります。ただし、流行ウイルスがワクチン株ウイルスと遺伝子的にかけ離れたものとなってしまった場合には、(季節性)インフルエンザを予防する点に於いて(季節性)インフルエンザワクチンの効果は減りますが、 重症化や死亡を防ぐ点に於いては(季節性)インフルエンザワクチンの効果があるとされています。
こどもたちについては、インフルエンザワクチンによって予防可能なレベルまで抗体が上がるのは、6ヶ月児以上です。
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インフルエンザワクチンの副作用(副反応)
インフルエンザワクチンの副作用(副反応)を心配する人もいます。インフルエンザワクチンは、他のワクチンや薬と同様に、 強いアレルギー反応のような、深刻な問題を引き起こすことがあります。しかし、インフルエンザワクチンが重い障害や死をもたらす可能性は極めて少ないです。インフルエンザワクチンの接種を受ける人の大部分に、ひどい支障はありません。よくある副反応は、注射部位の痛みで10-64%で起こり、2日程続く ことがありますが、通常、日常の活動に支障はありません。また、こどもでは、注射の6-12時間後に熱が出て、1-2日発熱が続く場合もあります。
頻度が少ない副反応としては、アレルギー反応とギラン-バレー症候群(GBS : Guillain-Barr syndrome)があります。命に関わるようなアレルギー反応はまれですが、ワクチンの構成成分のいずれかにアレルギーがあれば起こりえます。多いのは卵アレルギーの場合です。ワクチンで使われるインフルエンザウイルスがニワトリの卵で培養されているためです。明らかな卵アレルギーがあれば、インフルエンザワクチンは控えた方が良いでしょう。卵アレルギーがある人やいままでのワクチンでアレルギー反応を起こしたことがある人は、そのことをかかりつけ医師に告げてこれからの予防接種についてよく相談しましょう。
ギラン-バレー症候群(GBS)は、感染症に続いて起こることがある麻痺を起こす病気で原因はよくわかっていません。ギラン-バレー症候群(GBS)患者の致死率は6%で、年齢とともに致死率は増加します。アメリカ合衆国では、1976年のブタのインフルエンザ株(A型H1N1亜型)使用のワクチンが、ギラン-バレー症候群患者の増加と関係ありとされました。しかし、その後の他の株の(季節性)インフルエンザワクチンでは、ワクチンの使用とギラン-バレー症候群患者の増加との間にはっきりした関係は認められませんでし た。関係があるとしても、インフルエンザワクチン接種によって接種者100万人について1-2人のギラン-バレー症候群患者を増加させる程度とされ、インフルエンザワクチン接種によって避けることができる重症のインフルエンザの危険よりは小さいと考えられます。ギラン-バレー症候群については、上気道炎やCampylobacter jejuni 等との関係がはっきりしてきています。また、ギラン-バレー症候群に以前かかったことがある人では、ギラン-バレー症候群の発生率が高いので、インフルエンザワクチンの接種は慎重に検討した方が良いでしょう。
(季節性)インフルエンザワクチンは毎年度の接種
冬の流行期には、せいぜい2、3種の(季節性)インフルエンザウイルスが流行しているにすぎないのですが、人が一生の間にかかるインフルエンザの回数は、2、3回ではすみません。毎年のように(季節性)インフルエンザにかかる人もいます。これは、インフルエンザウイルスの遺伝子に大きな変異が起こると、変異する前のインフルエンザウイルスに対応してできた免疫は、変異後は、あまり役立たないためです。毎年度、最近に流行していたインフルエンザウイルスに遺伝子的に近似した株を使って、ワクチン株は更新される可能性があります。(季節性)インフルエンザワクチンは、昨年度と今年度では、中身が違う可能性があります。流行する(季節性)インフルエンザウイルスの遺伝子が毎年度、変異する可能性があることが、毎年度、� ��ンフルエンザワクチンを接種しなければならない理由の一つです。もう一つの理由は、インフルエンザワクチンの接種後、インフルエンザに対する抗体の値は2、3か月すると下がり始めて、しばしば1年後には、低値になってしまうことです。
(季節性)インフルエンザワクチン接種の時期
(季節性)インフルエンザ患者の発生は、毎冬、11月から4月ころにかけて見られますが、多いのは、12月後半から3月前半までで す。この流行の前に、10月以降、12月前半までに(季節性)インフルエンザワクチンの接種を済ませておけば、その冬のシーズンの間はインフルエンザに対する免疫が持続すると考えられます。
ただし、(季節性)インフルエンザ流行のピークは、下の図1に見るように、1月の下旬(第4週)から2月の上旬(第5週)が多いのですが、年により、速くて11月 (第48週)、遅くて3月(第11週)に見られる場合もあります(* 図1の第44週は2009年の新型インフルエンザです[2009年10月26日から11月1日まで]。新型インフルエンザについては、通常の季節性インフルエンザのシーズンから外れて流行することがあります)。流行が始まってからのワクチン接種では、接種前に(季節性)インフルエンザにかかってしまう可能性があります。また、接種直後では、まだインフルエンザに対する免疫ができあがっていないため、やはりインフルエンザにかかってしまう可能性があります。インフルエンザワクチンの接種は、早めに済ませましょう。
インフルエンザワクチン接種後、1-2週間でインフルエンザに対する抗体の値が上昇し、インフルエンザに対する免疫が出現します。抗体の値は、接種の2 週間後にピーク値に達します。インフルエンザワクチン接種後、2-3ヶ月するとインフルエンザに対する抗体の値はだんだんと下がり始めます。
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予防接種法が、2001年に改正されました(2001年11月7日公布・施行)。予防接種法の第二条では、予防接種法の定めるところにより予防接種を行う疾病の範囲が定められています。2001年の改正では、予防接種法の定めるところにより予防接種を行う疾病の一つに、「二類疾病」としてインフルエンザが、加わりました。なお、2007年の改正では、結核予防法が感染症法に統合されたことに伴い、予防接種法の定めるところにより予防接種を行う疾病の一つに、「一類疾病」として結核が、加わりました。
まず、予防接種法の第二条では、「その発生及びまん延を予防することを目的として、予防接種法の定めるところにより予防接種を行う疾病」を「一類疾病」として、ジフテリア、 百日せき、 急性灰白髄炎(ポリオ)、 麻しん、 風しん、 日本脳炎、 破傷風、結核の8つの感染症を掲げています。さらに、予防接種法の第二条では、「前各号に掲げる疾病のほか、その発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う 必要があると認められる疾病として政令で定める疾病」も「一類疾病」としていますので、感染症の発生状況によっては他の感染症が政令によって予防接種法の定めるところにより予防接種を行う疾病となる可能性もあります。「前各号に掲げる疾病のほか、その発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要が あると認められる疾病として政令で定める疾病」としては、痘そうが定められています。
その上で、予防接種法の第二条では、「個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資することを目的として、予防接種法の定 めるところにより予防接種を行う疾病」を「二類疾病」として、インフルエンザを掲げています。「二類疾病」のインフルエンザの予防接種では、「個人の発病又はその重症化の防止」を目的の始めに掲げているのが目立ちます。
予防接種法施行令の第一条および附則が、定期の予防接種を行う疾病ごとの対象者を定めています。下の表の通りです。当該疾病にかかっている者又はかかったことのある者、その他厚生労働省令で定める者は、対象者から除かれます(但し、インフルエンザについては、インフルエンザにかかったことのある者は、対象者から除かれません)。なお、対象者 は予防接種を受ける義務はありません。予防接種を希望する人だけが予防接種を受けます。予防接種を受ける場合には、インフォームド・コンセント(医師の説明を受けた上での、対象者の同意)が原則となります。
疾病 | 定期の予防接種の対象者 |
---|---|
ジフテリア | 1. 生後三月から生後九十月に至るまでの間にある者 2. 十一歳以上十三歳未満の者 |
百日せき | 生後三月から生後九十月に至るまでの間にある者 |
急性灰白髄炎(ポリオ) | 生後三月から生後九十月に至るまでの間にある者 |
麻しん | 1. 生後十二月から生後二十四月に至るまでの間にある者 2. 五歳以上七歳未満の者であって、小学校就学の始期に達する日の一年前の日から当該始期に達する日の前日までの間にある者 3. (平成二十年四月一日から平成二十五年三月三十一日までの間、)十三歳となる日の属する年度の初日から当該年度の末日までの間にある者 4. (平成二十年四月一日から平成二十五年三月三十一日までの間、)十八歳となる日の属する年度の初日から当該年度の末日までの間にある者 |
風しん | 1. 生後十二月から生後二十四月に至るまでの間にある者 2. 五歳以上七歳未満の者であって、小学校就学の始期に達する日の一年前の日から当該始期に達する日の前日までの間にあるもの 3. (平成二十年四月一日から平成二十五年三月三十一日までの間、)十三歳となる日の属する年度の初日から当該年度の末日までの間にある者 4. (平成二十年四月一日から平成二十五年三月三十一日までの間、)十八歳となる日の属する年度の初日から当該年度の末日までの間にある者 |
日本脳炎 | 1. 生後六月から生後九十月に至るまでの間にある者 2. 九歳以上十三歳未満の者 * 但し、都道府県知事は、日本脳炎の発生状況等を勘案して、当該都道府県の区域のうち日本脳炎に係る予防接種を行う必要がないと認められる区域を指定す ることができます。その区域の全部が当該指定に係る区域に含まれる市町村の長は、日本脳炎について予防接種を行うことを要しません。そこで、日本脳炎の発生が見られない北方の道県では、日本脳炎の予防接種が行われない可能性があります。(予防接種法第三条および予防接種法施行令第二条による) |
破傷風 | 1. 生後三月から生後九十月に至るまでの間にある者 2. 十一歳以上十三歳未満の者 |
結核 | 生後六月に至るまでの間にある者(但し、地理的条件、交通事情、災害の発生その他の特別の事情によりやむを得ないと認められる場合には、結核に係る定期の予防接種の対象者は、生後一歳に至るまでの間にある者とする。) |
インフルエンザ | 1. 六十五歳以上の者 2. 六十歳以上六十五歳未満の者であつて、心臓、じん臓若しくは呼吸器の機能又はヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害を有するものとして厚生労働省令で定めるもの。「予防接種法の一部を改正する法律等の施行について(健発第1058号。平成13年11月7日、厚生労働省健康局長より都道府県知事・政令市市長・特別区区長あて。)」の中に詳しい機能の障害の程度の説明があり、機能の障害についてこれらに該当することについては、医師の診断書又は身体障害者手帳の写しなど、接種を受けようとするにあたっては接種対象者であることの認定に必要と思われる資料の提出を求められます。 |
予防接種法の定めるところにより行われる定期のインフルエンザ予防接種の実施主体は、市町村です。市町村により、実施期 間、自己負担額、対象者への周知方法などは違います。詳細は、お住まいの市町村、保健所(横浜市の場合は、福祉保健センター)などにお問い合わせください。横浜市の場合は、平成23年度(2011年度)については、定期のインフルエンザ予防接種の実施期間は、平成23年10月1日(土)から平成23年12月31日(土)まで(医療機関の休診日を除く)となっています。詳しくは、「高齢者インフルエンザ予防接種」(横浜市保健所ウェブページ)をご覧下さい(下線部をクリックして下さい)。
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インフルエンザの生ワクチンについて
点鼻によって鼻から投与されるインフルエンザの生ワクチン(LAIV : live attenuated influenza vaccine)が、ロシアで使われ、また、アメリカ合衆国では、1960年台から研究開発中でした。このワクチンのウイルスは、増殖が温度の影響を受けやすく、そのため、主として比較的低温の上気道で増殖し、比較的高温の下気道ではあまり増殖しません。また、ワクチンによるインフルエンザの症状は少ないです。点鼻によって鼻から投与できるので、注射に比べて投与が楽です。全身の免疫と同時に気道粘膜の免疫を強めます。このワクチンの健康成人への試験的投与では、ある冬季において、発熱を伴う呼吸器疾患が9-24%減少し、病気による欠勤が13-28%減少しました。1996-1997年の15-71ヶ月 児への3価ワクチンの試験的投与では、インフルエンザウイルス培養検査陽性のA(H3N2)型及びB型のインフルエンザを防ぐことに93%有効でした。
さて、2003年6月17日、アメリカ合衆国では、食品医薬品局(FDA)が、鼻に投与するインフルエンザ生ワクチン(LAIV)を認可しました。日本ではまだですが、アメリカ合衆国では、2003年に、インフルエンザの予防のために、この鼻に投与するインフルエンザ生ワクチンが、5歳から49歳までの妊娠中でない健康な人たちに投与できるようになりました。さらに、2007年9月19日の食品医薬品局(FDA)の認可では、接種対象となる年齢層が、2歳から49歳までに拡大されました。毎年の接種です。2歳から8歳のこどもで、生ワクチンでも不活化ワクチンでも初めてインフルエンザワクチンを受ける場合には、少なくとも 1か月(4週間)間隔をあけての2回接種となります。2歳から8歳のこどもで、前シーズンに初めて接種を受けたが1回だけの接種であった場合にも、少なくとも 1か月(4週間)間隔をあけての2回接種となります。上記以外の2歳から8歳のこどもで、インフルエンザワクチンを以前に1度でも受けたことがある場合には1回接種となります。2歳から8歳のこどもで、前シーズンより前のシーズンに1回だけしか接種を受けたことがない場合には1回接種となります。また、9歳から49歳までの人は、毎年1回接種で良いです。
2003 年に認可された生ワクチンについては、20228人について試験的投与がなされています。5-17歳のこどもについては1万人以上に試験的投与がなされています。こどもたちについては、約87%でインフルエンザの予防効果が見られました。18-49歳の健康な大人については、発熱・上部呼吸器症状といった 重いインフルエンザの症状を軽減させる効果が見られました。他の生ワクチンと同様に、エイズ患者やがん患者などで免疫が抑制された状態の人には、投与できません。たまごのアレルギーがある人にも投与できません。喘息患者や喘息の既往のある人にも投与できません。ギラン・バレー症候群になったことがある人にも投与できません。アスピリンを服用しているこどもや思春期の人にも投与できません。妊娠中の人にも投与できません。5歳未満のこどもたちへの試験的投与では、投与から42日以内の喘息・喘鳴の率の増加が認められたため、2003年の食品医薬品局(FDA)の認可では5歳未満のこどもたちへの投与は認可されませんでした。大人でよく見られる副作用としては、鼻水、鼻詰まり、頭痛、のどの痛み、咳などがあります。こど もでよく見られる副作用としては、鼻水、鼻詰まり、頭痛、筋肉の痛み、喘鳴、腹痛、嘔吐、発熱などがあります。なお、ワクチン成分にチメロサールは含まれていません。また、ワクチンウイルスは最初、ニワトリの卵で培養されるため、ニワトリの卵のタンバク質が微量含まれています。
2007 年の食品医薬品局(FDA)の認可にあたっては、6-59か月の乳幼児総計6418人にインフルエンザ生ワクチンが投与された三つの研究でワクチンの安全性と効果が評価されました。二つの研究では、ワクチンを投与した場合とワクチンではなくプラセボ(偽薬)を投与した場合との比較で、インフルエンザを予防するワクチンの効果が認められました。もう一つの研究では、インフルエンザ生ワクチンが投与された3916人中153人(3.9%)のインフルエンザ患者が発生し、日本でも使用されているようなインフルエンザ不活化ワクチンが投与された3936人中338人(8.6%)のインフルエンザ患者が発生したこと等から、インフルエンザ不活化ワクチンと同等以上のインフルエンザを予防する効果がインフルエンザ生ワクチンに認められました。2歳未満のこどもたちへの� ��験的投与では、入院と喘鳴の増加が認められたため、2007年の食品医薬品局(FDA)の認可では2歳未満のこどもたちへの投与は認可されませんでした。また、喘息の人や5歳未満でも喘鳴を繰り返しているこどもには、投与によって喘鳴を増強する可能性があることから、インフルエンザ生ワクチンは投与できません。
2003年6月17日、アメリカ合衆国で、食品医薬品局(FDA)によって認可されたのは、鼻から投与する3価のインフルエンザ生ワクチン(LAIV)でFluMistという名称です。ここで、3価とは、該当シーズンのAソ連型、A香港型、B型の3種類のインフルエンザワクチン株に対応した3種類のワクチン成分が入っているということです。このインフルエン ザ生ワクチンに含まれるのは、遺伝子再集合の結果生まれたウイルスです。遺伝子再集合については、当・横浜市衛生研究所ホームページ「高病原性鳥インフルエンザについて」を参照して下さい。生ワクチンのウイルスは、低温に適応した増殖が温度の影響を受けやすい病原性が弱いウイルスと流行を起こしたウイルスとから遺伝子を引き継いでいます。前者のウイルスからは低温に適応し増殖が温度の影響を受けやすく病原性が弱い性質を受け継ぎ、後者のウイルスからは流行株の表面抗原であるHA( hemagglutinin )とNA( neuraminidase )とを引き継いでいます。なお、低温に適応した(cold-adapted : ca)とは、多くの野生株が増殖の制限を受ける摂氏25度でよく増殖することを示します。増殖が温度の影響を受けやすい(temperature- sensitive : ts)とは、多くの野生株がよく増殖する温度である、B型については摂氏37度で、A型については摂氏39度で、増殖の制限を受けることを示します。病原性が弱い(attenuated : att)とは、多くの野生株が引き起こすようなインフルエンザの典型的な症状を引き起こさないことを示します。これらの性質のために、生ワクチンのウイル スは、鼻咽頭部で増殖して防御的な免疫を生じます。
2007年FDA認可のインフルエンザ生ワクチンFluMistは、専用の器具(スプレー)により、左右の鼻孔から0.1mlずつ総計0.2ml投与し ます。鼻詰まりのときは、投与できません。このインフルエンザ生ワクチンの投与を受けた人では、投与後数日間は、ワクチンウイルスが鼻咽頭分泌液中から検出されることがあります。ワクチンウイルスによる感染の可能性を防ぐため、このインフルエンザ生ワクチンの投与を受けた人は、投与後7日間は重症の免疫不全の人との接触は避ける必要があります。
抗インフルエンザウイルス剤とインフルエンザ生ワクチンとを同時投与した場合には、抗インフルエンザウイルス剤がワクチンウイルスの増殖を防ぐことで免疫効果が見られない可能性がありますので、同時投与はしないのが原則です。抗インフルエンザウイルス剤によって免疫効果が減弱することを避けるためには、抗インフルエンザウイルス剤の投与終了後48時間以上� �過してから、インフルエンザ生ワクチンは投与するべきとされています。また、インフルエンザ生ワク チンの投与終了後2週間以上経過してから、抗インフルエンザウイルス剤は投与するべきとされています。インフルエンザ生ワクチンの接種の48時間前から2週間後までの間に抗インフルエンザウイルス剤の投与を受けてしまった場合には、後日、再接種を受けるべきであるとされています。
アメリカ合衆国におけるインフルエンザの不活化ワクチンと生ワクチンとの主要な相違点 | ||
不活化ワクチン | 生ワクチン | |
---|---|---|
投与方法 | 筋肉内注射 | 鼻の中に噴霧 |
ワクチンのウイルスの状態 | 死んだウイルス | 病原性が弱い、生きているウイルス |
接種対象年齢 | 生後6か月以上 | 2-49歳 |
インフルエンザ関連の合併症を起こす可能性が高い人への接種ができるか | できる | できない |
喘息のこどもや、過去12か月間に喘鳴が見られた2-4歳のこどもへの接種ができるか | できる | できない |
妊婦への接種ができるか | できる | できない |
強度の免疫不全状態の人の家族・濃厚接触者への接種ができるか | できる | できない |
抗インフルエンザウイルス剤投与と同時に接種ができるか | できる | できない |
チメロサールを含有するか | 含有するものと含有しないものとあり | 含有しない |
接種後の鼻咽頭部からのインフルエンザウイルスの検出 | 検出されない | 接種後7日後ぐらいまで検出される |
抗原量が多いインフルエンザの不活化ワクチンについて
アメリカ合衆国では、2010-2011年冬季に、抗原量が多いインフルエンザの不活化ワクチン(TIV High-Dose)が65歳以上を接種対象として使用できるようになりました(商品名: Fluzone High-Dose)。日本ではまだ認可されていません。予め、筋肉注射用のシリンジに詰められています。保存料のチメロサール(有機水銀化合物)は含有しません。主に肩の三角筋に0.5mlを一回、筋肉注射します。アメリカ合衆国の通常の筋肉注射用のインフルエンザの不活化ワクチンが、ワクチン株の抗原を各15マイクロ・グラム含むのに対し、このワクチンは各60マイクロ・グラムと多いです。通常の筋肉注射用のインフルエンザの不活化ワクチンでは若年成人に比して高齢者の免疫効果が低いため、このワクチンではワクチン株の抗原量を増量することで高齢者の免疫効果を高めました。一方で、このワクチンが大量に接種されるようになると、ワクチン不足も懸念されます。
皮内注射用のインフルエンザの不活化ワクチンについて
2011年5月、アメリカ合衆国では、食品医薬品局(FDA)が、皮内注射用のインフルエンザの不活化ワクチン(TIV Intradermal)を認可しました(商品名: Fluzone Intradermal)。日本ではまだ認可されていません。接種対象年齢は、18-64歳です。予め、皮内注射用のシリンジに詰められています。保存料のチメロサール(有機水銀化合物)は含有しません。主に肩の三角筋部の皮膚に0.1mlを一回、皮内注射します。アメリカ合衆国の通常の筋肉注射用のインフルエンザの不活化ワクチンが、ワクチン株の抗原を各15マイクロ・グラム含むのに対し、このワクチンは各9マイクロ・グラムと少ないです。よく見られる副反応としては、接種部位の発赤、しこり、腫れ、痛み、かゆみです。痛みを別として、これらの副反応の頻度は、筋肉注射用の不活化ワクチンより多いですが、3-7日の内に消えるのが通常です。限られた量のワクチン株の抗原でワクチン製造を考える場合、筋肉注射用のインフルエンザの不活化ワ� ��チンに比して、皮内注射用のインフルエンザの不活化ワクチンでは、より多くのワクチン本数を製造することができるものと考えられます。
参考文献
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- Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) ; Prevention and Control of Influenza with Vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP), 2011. ; MMWR. August 26, 2011/Vol.60/No. 33, p. 1128-1132.
2000年11月15日初掲載
2001年10月3日改訂
2002年3月4日増補
2002年11月22日改訂
2003年9月29日増補改訂
2004年10月13日増補改訂
2005年12月14日増補改訂
2006年9月5日改訂
2007年1月29日増補改訂
2007年10月1日増補改訂
2007年12月25日増補改訂
2008年10月14日増補改訂
2008年12月3日増補改訂
2009年10月19日増補改訂
2010年12月1日増補改訂
2011年11月18日増補改訂
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